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広島高等裁判所 昭和50年(ネ)336号 判決 1977年3月29日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、当事者の申立

控訴代理人は、「(一)、原判決を取り消す。(二)、被控訴人の請求を棄却する。(三)、訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

二、当事者双方の主張及び証拠関係

次のとおり付加するほか原判決事実摘示の第二及び第三と同様であるから、これを引用する。(但し、原判決二枚目表終りから三行目及び二行目並びに三枚目表二行目に各「理事」とある次に、いずれも「及び監事」と付加する。)

(一)、控訴人の主張

(1)、被控訴人農事組合法人大井集団養鶏場(以下被控訴組合という。)においては、組合員一三人全員が理事又は監事となつていたから、仮に被控訴組合主張の決議がなされたとしても、同決議は、組合員有限責任を定めた農業協同組合法の規定に違反する。

(2)、又、本件決議は、被控訴組合の役員に組合の債務を負担させることを内容とするものであるが、役員といえども組合に対する関係では第三者であるから、右決議は総会の権限事項を越えるものであつて無効である。

(二)、被控訴人の主張

(1)、被控訴組合においては、その設立当初から組合員一三人が全員役員となり両者の資格を兼ねていたが、被控訴組合主張の本件決議の内容は、右組合員兼役員一同が同組合の経営困難から生じた債務につき分担責任を負う旨の意思の合致を見たものである。

(2)、法人の負債整理の方法について議決することは、むしろその法人の役員の義務的行為である。

理由

一、当裁判所は、被控訴組合の控訴人に対する本訴請求は正当として認容すべきものと判定した。その理由は、次の二のとおり付加するほか原判決の理由の記載と同様であるから、これを引用する。

二、控訴人は、仮に被控訴人主張の本件決議がなされたとしても、その決議は、農事組合法人の組合員の有限責任を定めた強行規定に違反し、かつ、第三者に義務を負担させることを内容とするから、無効である旨主張する。そこで、この点について検討する。

農業協同組合法七三条一項、一三条四項が農事組合法人の組合員の有限責任を定めており、組合役員も組合員である以上右規定の適用を受けることは、控訴人主張のとおりである。それ故、右組合員有限責任の原則を越えて組合員の責任を加重することを内容とする総会の決議は、組合員全員の同意を待つて初めてその効力を生ずるものと解すべきである。ところで、本件決議について考えてみるに、被控訴組合においては組合員一三名全員が理事又は監事となつていたことは、当事者間に争いがなく、この事実に前記認定事実を総合すると、本件決議は、右組合員兼役員である一三名全員出席のもとに異議なく議決されたことが認められるから、本件決議は、右の趣旨に合致し有効なものであり、又、もとより組合員又は役員以外の第三者に義務を課するものとも言えない。従つて、控訴人の主張は採用し難い。

三、そうすると、右と同旨の原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないから棄却すべきである。

よつて、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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